観に行ってきました。面白かったです。シールドマシンという、巨大な人造のフナムシが地下をうごめくさまは想像するととても興奮します。おそらく、あの興奮は性的なものがあるのでしょう。行列を待つ間に僕が考えていたジョークは、シールドマシンの口の前でお尻を突き上げて「さあ、掘ってくれ」と叫ぶという、肛門性愛をネタにしたものでした。僕は肛門性愛に興味はありません。シールドマシンの口にある十文字についた歯を見ていると、かき氷り製造マシンの氷を抑える円板を思い出します。子供の頃の僕は手回しかき氷製造マシンで、かき氷をとても早く作るのが得意でした。あの夏の日が戻ってくることは二度とありません。まあ、そんなことはどうだっていいです。
僕が一番楽しんだのは巨大なマシンではありません。恐ろしく大きな機械には圧倒されましたが、一番楽しんだのは併設された横穴にあった掘削技術です。解説によるとこの空間は、トンネルを氷を使って広げて出来たものだそうです。土に何本もの細い水道管を通し、水を送りこんだ後に凍らせ、固まってできた氷のトンネルを利用するのだそうです。最新の装置を使うのに、ずいぶんプリミティブなやり方でトンネルを掘るものだと感心しました。この方法を使うとかなり安く上がるそうです。
そういったことは展示パネルの前に常駐している作業者の方にも聞きました。何かに専門的に携わっている人の話は何であれ非常に面白いです。語り口は非常に穏やかで分かりやすく、それでいて熱意が伝わってきます。あの態度はどこから来るのでしょう。僕もあれが欲しいです。最近は何かを説明していると、自分が何を説明しているのか途中で分からなくなります (もちろん、このことはまだ誰にも悟られていません)。口にした言葉が微妙に事実からズレているような気がしてなりません。自分が何を言っているかはちゃんと分かるのですが、それが何を意味しているのか捕捉できないような気がします。それで僕は最後にはいつも喋る気を失い、口ごもってしまのです。あのどこまでもお喋りだった僕がです。しかし、これは僕が言葉に気をつけ始めたからかもしれません。僕の好きな日本の昔話を思い出します。
昔あるところに踊りの得意なムカデがいた。それを妬んだテントウムシはムカデに言った。「ムカデさん、あなたはなんて上手に踊るのでしょう。できれば私にその踊り方を教えてもらいたいのですが。その 20 番目の足をこう動かして、それから 9 番目の足をこうですか?」と。そう言われて運足を意識しはじめた途端、ムカデは踊れなくなった
僕の考えているこの昔話の続きは、自分の踊りをゼロから再び構築し、完璧に意識できるようになったムカデが以前より素晴らしい芸術的な踊り手になったというものです。本当に中身のある本物になるにはそれしかありません。それができなかった方のムカデのことは考えないようにしています。
展示パネルを置いてあるトンネルで、どこか聴き覚えのある音楽が流れていると思ったら石野卓球さんの新しいアルバムを流していました。ジャケットに地下の写真を使っている関係でしょう。しばらく聴いていましたが、あまり新しいことをやっているようには思えませんでした。これは多分買わないでしょう。
買いました。まだ聴いていません。
観ました。テレビブロスでゴシックホラーの女の子がとても可愛いと紹介されていたからです。僕の中でゴシックホラーの意味は、カート・ヴォネガットさんがタイムクェイクの中で書いていたものです。つまり、「女の子が一人で古い洋館に入っていって、パンティがずり落ちるまでビビる話」というものです。なるほど、中世ヨーロッパ風の黒の洋服を着た女の人が気持ちの悪い人形やらなにやらで怖いことする映画なのでしょう。そう思っていました。
ですが、それは間違いでした。この映画はゴシックホラーではありませんでした。この映画はスプラッタでした。木葉美一さんの漫画を読もうとしたら、それが氏賀 Y 太作品だったようなものです。ですから、他の人間がこれを観るのなら、その人が痛みの映像に関してそれほど感受性が強くないことを願います。僕は終盤の鋏を顔に突き立てて、眼球を抉り出すシーンを直視することはできませんでした。お金を払って観ているのに!、です。
また女性視点の嫌な話を見てしまいました。映画の前評判には主人公がとても可愛いとありました。おそらくその前評判を書いたのは女性でしょう。僕にはまったくそうは思えませんでした。まったく不可解な生き物がまったく不可解な理由でまったく不可解なことをする映画でした。そして、まったく不可解なことに彼女は最後に救われるのです。デウス・エクス・マキナ、おめでとう、ありがとう、です。結局この映画を観て僕が考えたのは、再びカート・ヴォネガットさんがタイムクェイクで書いていた警句です。つまり、「女はみんなサイコだ。男はみんなドアホだ」というものです。カート・ヴォネガットさんの本は何を読んでも素晴らしいことが書いてあります。