# 100

»今日はすこし寒いです。

»先ほど僕は電話を受け取りました。僕の友達はこれから辞令で外国に行くのだそうです。僕はいつも孤独だ孤独だと言っていましたが、それは嘘でした。なんだかんだ言って僕には何人か気のおけない友達がいたのです。時間がたつごとに僕からは友達がどんどん離れていきました。それを僕は悲しいこととは思いませんでした。なぜなら僕は自分のことで精一杯で、他人のことで悲しむことができなくなっていたからです。先月に入ってすぐ、僕の最後から 2 番目に親しい友達が遠い田舎へ帰ってしまいました。僕は彼と最後の晩にお酒を飲み、それから彼を見送りました。「これが最後ではない、またいつか会える」と僕は言いました。彼は「そうだな、じゃあな」と言いました。僕は自分と彼の人生がもう二度と交差することはないだろうと思いました。しかし、心の奥底では悲しいことだと思えませんでした。思うことができませんでした。

»今日、僕は自分の最後の 1 番親しい友人がとても遠いところへ行ってしまい、しばらくの間は会えず、下手をすると事故かなにかでもう二度と会えなくなってしまうかもしれないということを知りました。僕は悲しめませんでした。自分には悲しむ資格がないということが分かっていたからです。そのかわり僕は日本を離れるのを嫌がる彼を励まし、元気でいろよと言いました。

»電話を切ると僕はとても怖くなりました。もう僕には本当に、本当の意味で友達が居なくなってしまったからです。僕の話を真剣に聞いてくれる人はいます。僕のことを心から叱ってくれる人はいます。僕を受け入れてくれる人はいます。でも、僕が受け入れる人はもういません。ところが、それは恐ろしさの本当の原因ではありませんでした。それよりも僕がもっと死ぬほどおびえたのは、僕の 0 番目に親しい友人である僕さえも僕を見捨ててどこかへ行ってしまうのではないかということを思いついてしまったからです。物心付いたときから一緒に過ごした僕、彼が僕から離れてしまうなどということは僕は考えることもできません。しかし、僕の友達がひとり、またひとりと離れてしまう今、そうなってしまう可能性もあるのです。この広い世界で 0 りぼっちになってしまう恐ろしさのあまり僕は毛布を頭から被ると服も着替えず寝てしまいました。

»これは冗談ではありません。

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