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» [misc] アサリのものがたり

「クッ(水を吸う)プッ(水を吐く)。ここはずいぶん温かい。そしてずいぶん狭っくるしい。おかげで酸素が足りなくて息ができない。同胞たちもどうやらそう思っているらしい。伝達物質で簡単に分かる。しかし私は心の底では安心している。どんな時もこの二枚の貝殻、私と共に育った硬い外骨格が私を守ってくれるからだ。神様が私に与えて下さった無敵の鎧だ。だから今、冷たい真水が私を洗っていても、合わせ目をがっちり閉じてさえいれば恐れることはないのだ。……だが何かおかしい。熱い。殻が燃えるように熱い。これでは自分の体液で蒸し焼きになってしまう。熱い、熱い、熱い、ああ死ぬ、死んでしまう。さようなら、同胞たち、さようなら、美しいあの人、もう私にはこの殻を閉じておくことが出来ない……。そのとき私は巨大な生き物が私をつかみ上げズルリとひと飲みにしてこう言うのを聞いた。『うまい。やっぱりアサリにはバターだな』

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