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>> レベッカ・ブラッド「ウェブログ・ハンドブック」

読みました。うーん、すごい本です。「わたしが運営しているこれこれこういうものこそがザ・ウェブログ・ジャーナリングというものであって、あなたのそのなんだかよくわからないものはウェブログですらない」という話だったらどうしようと思っていましたが、全然それとは違って、むしろある程度の年月の間サイトを運営している人なら誰でも考えたことのあるであろう、表現の方向性やその手段、コミュニティとの付き合い方を明確に具体的に書いた本でした。著者の考えは非常にバラエティに富んでいて、外にいる不特定多数の人へものを書くサイトを運営するときに考えなくてはいけないこと、そのほとんど全てを指摘しているように思えます。例えば、相互リンク依頼のことや、ネタ元の表記のエチケットなどはブログに関わらず、ふるき良き個人日記サイトでもあてはまることです。もっとも、日本での個人サイト運営にありがちな、掲示版でのやりとりや、テキストサイト間パワーバランスの問題はフォローしていません(それはまた別の人が書くでしょうし、あまり重要ではないように思えます)。オフ会でのふるまいかたはフォローしています。これらは Beltorchicca の demi さんが、この本との仮想対話の中で指摘していました。google すれば分かります。

ブラッドさんのサイト運営への指摘は非常に具体的で、指摘の理由もとても分かり易く、「著者はこれらの戦場を実際に経験し、生き延びた末にこうして語っている」という、最近ずっと読んでいる Levine「Linkers & Loaders」に寄せられた GLS さんのコメントを思い出すほどです。訳者の yomoyomo さんが、田口(他)「ウェブログ入門」を読んで、sawada special を運営している sawada さんのサイト運営の感想に肩透かしを受けたというようなことを書いていますが、それは多分このブラッドさんの多岐におよぶ洞察が念頭にあったからに違いありません。多分。あったんじゃないかな、です。他人のことはわかりません。そう推測してしまうぐらい、この本ではいろいろ考えられています。

なにかを表明するサイトを始めるときに、コミュニティと真面目につき合っていくのが不安だったり、誰かが言ったからとか、皆がそうしてるからといった、ぼんやりとしたポリシーをもったままサイト運営をしている人にとってはこの本は強力な羅針盤になると思います。そして、ちゃんと自分で考えてサイトを運営できている人にとっては、この本は、まさに「対象を絞った思いがけない発見(targeted serendipity)」が沢山つまった面白い本であるはずです。targeted serendipity とは、レベッカさんが指摘するウェブログ閲覧者がまさに求めているもののことです。つまり、この本はウェブログを運営しつつウェブログ読を読むのが好きな人にとっては、まだ内容を知らないお気に入りサイトが書籍化して現れたようなものになるでしょう。おそらく。保証はできません。

ええと、良くないところ。邦訳本では、まず本文前後の背景は、サイトのデザインに言及している本文と矛盾しています。ミームという言葉には注が欲しいです。「まるっと」って。それから、この本はもうすこし早く出版されていたら、と思います。旬というものの存在するツール本やネット文化本と違って、木下「レポートの組み立て方」や、木下「理科系の作文技術」のようなほとんど将来に渡って使える本と比べられるものですから、いつ出版されたかを何とか言うのはあまり意味のないことですけれども、それでもです。

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